- 裁判年月日:令和7年6月25日
- 裁判所:東京地方裁判所民事21部
- 事件番号:令和7年(モ)第70099号
- 事件名:執行費用負担決定申立事件
- 判例集:LEX/DB【文献番号】”25622996″
間接強制事件(基本事件)の申立債権者である申立人が、基本事件の執行費用を、基本事件の債務者である相手方の負担とすることを求めた事案で、基本事件は申立人の取下げによって終了したが、申立人が基本事件の取下げをした理由は、相手方が基本事件の決定後に本件情報を開示したことにあるところ、このような経緯に照らすと、基本事件の執行費用は、相手方の負担とするのが相当であるとした事例。
事案の概要
申立人は、X Corp.を相手方として、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者情報開示命令の申立てをした。
この申立てに対し、東京地方裁判所(民事9部)は、令和6年12月9日、相手方に対し、「相手方は、申立人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。」との決定をし、その後、同決定は確定した。
申立人は、執行力のある上記決定正本に基づき、令和7年1月27日、間接強制の申立てをした(基本事件)。
東京地方裁判所(民事21部)は、同年2月13日、相手方に対し、発信者情報目録記載の各情報を開示することを命じるとともに、相手方が当該決定送達の日の翌日から7日以内に前記の義務を履行しないときは、上記期間経過の翌日から履行済みまで1日につき10万円の割合による金員を申立人に対して支払うことを命じる旨の決定をし、その後、同決定は確定した。
相手方は、同年2月17日、申立人に対し、発信者情報目録記載の各情報を開示した。
申立人は、同年4月18日、間接強制の申立てを取り下げ、同年6月9日、基本事件の執行費用を相手方の負担とすることを申し立てた(本件)。
決定の要旨
既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民事訴訟法73条の規定に基づいて定めるべきものと解するのが相当である(最高裁判所平成29年(許)第1号同年7月20日第一小法廷決定・民集第71巻6号952頁参照)。この理は、間接強制についても妥当する。
これを本件についてみると、前記認定事実のとおり、基本事件は申立人の取下げによって目的を達せずに終了したが、申立人が基本事件の取下げをした理由は、相手方が基本事件の決定後に本件情報を開示したことにある。このような経緯に照らすと、基本事件の執行費用は、申立人の権利の伸張又は防御に必要であった行為によって生じた費用として、相手方の負担とするのが、当事者の衡平の見地に照らして相当である(民事執行法20条において準用する民事訴訟法73条2項、62条)。
解説
執行費用の負担についての前提
- 強制執行が目的を達して終了した場合
→原則、強制執行の費用で必要なものは執行費用として債務者の負担となる(民事執行法42条1項)。 - 強制執行が目的を達せずに終了した場合
→強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、定めるべきものとされる(最一判平成29年7月20日民集第71巻6号952頁)。
問題の所在
間接強制は、非金銭執行で代替執行の方法のよることができないもの(不代替的作為義務又は不作為義務)の場合に、債務者に対して、一定の制裁金の支払を命じて、心理的圧迫を加えることによって、債務の履行を促す強制執行の方法である。
そこで、間接強制の場合、①当該事件はどのように「終了」するかという問題と、②いかなる時点で強制執行の目的を達したといえるのかという問題がある。
すなわち、例えば債権執行であれば、取立てにより請求債権及び執行費用の全額が回収できた場合、強制執行の目的を達し、当該債権執行事件は終了するが、間接強制は、不代替的作為義務又は不作為義務を対象とする強制執行の方法である以上、強制執行によって直接債権の満足を得ようとするものではないため、基本的に、申立の取下げ又は請求異議の訴えに基づく執行不許の裁判以外によってその手続きが終局することが予定されていない。
本決定における判断
本決定は、取下げによって間接強制事件は目的を達せずに終了したとした上で、申立人が基本事件の取下げをした契機は、相手方が基本事件の決定後に債務を履行したことであることに着目し、基本事件の申立ては、申立人の権利の伸張又は防御に必要であったとして、基本事件の費用を相手方の負担とした。
つまり、間接強制事件は、①申立の取下げ又は請求異議の訴えに基づく執行不許の裁判のみによって「終了」し、②”強制執行の目的を達して”「終了」するというケースを観念し得ないものと思われる。
民事執行法
(民事訴訟法の準用)
第二十条 特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法第一編から第四編までの規定(同法第八十七条の二の規定を除く。)を準用する。(執行費用の負担)
民事執行法(昭和54年法律第4号)
第四十二条 強制執行の費用で必要なもの(以下「執行費用」という。)は、債務者の負担とする。
2 金銭の支払を目的とする債権についての強制執行にあつては、執行費用は、その執行手続において、債務名義を要しないで、同時に、取り立てることができる。
3~9 略
民事訴訟法(平成8年法律第109号)民事訴訟法
(訴訟が裁判及び和解によらないで完結した場合等の取扱い)
第七十三条 訴訟が裁判及び和解によらないで完結したときは、申立てにより、第一審裁判所は決定で訴訟費用の負担を命じ、その裁判所の裁判所書記官はその決定が執行力を生じた後にその負担の額を定めなければならない。補助参加の申出の取下げ又は補助参加についての異議の取下げがあった場合も、同様とする。
2 略